自分はこれをやりきったというのを, 一つでも持つことが重要

ー 学業や研究を通して ー

日本電信電話株式会社

対談「産官と学」2013年10月  NTT 横須賀研究開発センター

― 情報通信最前線の研究者と日本の研究教育の向上を語る ―

澤田 宏 氏
湯川 正裕 氏

(司会)
本日は澤田さん,湯川さんにお時間を取っていただきました.
まず澤田さんのご経歴をご紹介頂き,後はお二人にお任せして対談を進めたいと思います.

マサチューセッツ工科大学への留学と転機

澤田 : わかりました.
大学の時は,LSI設計技術の論理設計に関する研究をしていました.
論理関数は0や1を入力して,0や1を出力する,非常に基本的な物なのですが,それを効率的に表現したり,操作したりするため,BDD(二分決定グラフ)と呼ばれるものに関する研究をしていました.BDDのデータ構造自体はかなり昔から提唱されていたのですが,1986年頃に効率的なアルゴリズムがアメリカで提唱され,その後,その拡張や応用研究が盛んに行われました.

NTTへは1993年に入社したのですが,論理設計をプログラミング言語的にやるために,
PARTHENON (Parallel Architecture Refiner THEorized by Ntt Original concept)や
SFL (Structured Function description Language)と呼ばれるハードウェア記述言語を研究をしているチームに入り,コンピュータアーキテクチャの研究や,FPGA (field-programmable gate array)をどう活用したら面白いことができるのかという研究を2000年頃まで行っていました.

しかし,その研究がたたまれるようになってしまって,当時の上司が僕に半年間MIT(マサチューセッツ工科大学)に留学をさせてくれました.そこで,音声認識や,信号処理も意識した計算機アーキテクチャはどのようなものが良いかという研究を半年間させてもらって,日本に戻ってきてから信号処理の研究を 始めるようになりました.

澤田 宏 氏
湯川 : 2000年初めごろですよね.
たしか私が大学4年生で研究室に入ったころです.

澤田 : そうですね.2000年の4月からMITに留学して,2000年10月に帰ってきて,そのころから,信号処理,特に音源分離に関した研究をするようになりました.

湯川 : そのあたりから,音響信号処理のご研究をはじめられたのですね.

澤田 : はい.例えば2人同時に話してもらって,ICレコーダで録音したものをちゃんと一人一人の声に分けられますよっていう技術を2007年頃までやっていました.
2007年から2009年は,研究所の企画で仕事し,採用に関わる仕事もしていました.2009年頃からは,引き続き音源分離もしているのですが,もうすこし機械学習全般とか,最近でいうビッグデータに関する研究をしています.
だから今まではずっと音響信号処理に特化していたのですが,音だけじゃなくて,画像とか,もっと人と人との関係のデータとか,誰が何を買ったというデータ等,色々なデータを扱うようになってきました.今年の4月からは,そのような技術も使いながら,サービスやビジネス寄りのことにも取り組むため現在の研究所に来ました.
私自身の話は,だいたいそんなところでいいですか?

(司会) はい,ありがとうございます.

澤田 宏 氏澤田宏氏 略歴:(2013年現在)
1991年,京都大学工学部卒業.1993年,同修士課程修了. 同年,日本電信電話株式会社(NTT)入社. 以来,同社コミュニケーション科学基礎研究所にて, VLSI向けCADおよび計算機アーキテクチャの研究に従事. 2000年より,信号処理,特に独立成分分析を用いたブラインド音源分離の研究に従事. 2009年より,知能創発環境研究グループ グループリーダ.2013年より,同社サービスエボリューション研究所主幹研究員.現在に至る. 2001年,京都大学博士(情報学).