日本電信電話株式会社

対談「産官と学」2013年10月  NTT 横須賀研究開発センター

プログラミングができる人たちはかなり期待できます.
何かしら実装してきてくれて,実験結果を出してくれる.

押さえておくべき4つのポイント~プログラミングスキル・線形代数・確率統計・微分積分~

湯川 : 色々な専門を持った学生と付き合ってこられてきた感じですね.その辺を見てこられて,電気電子の学生っていうのはどのような位置づけになるか,大学一年生がイメージできるような形でお話頂けますか.

澤田 : 我々のNTTという事業体という意味でもそうなのですが,情報処理や通信も含むという理解で良いですか.

湯川 : そうですね,情報通信は電子工学科4つの柱の中の1つになっています.

澤田 : まず情報に関連すると,プログラミングができる人達はかなり期待できます.だいたいこういうのをやれば良いんだよと言うと,何かしら実装してきてくれて,実験結果を出してくれるのが早い気がします.

湯川 : プログラミングスキルがしっかり身についているということが,1つの大きなメリットとなるのですね.

澤田 : そうです.物理など,あまりプログラミングはやってこなかったけれども,現象のモデル化等が好きな人は逆に,最初の研究ディスカッションの段階や,プログラミングに入る前の数式のモデル化で力を発揮する人が多いです.

湯川 : すると,基礎的な学力の重要性は高いと考えていいですかね.そこの教育をしていかないといけないと個人的に感じているのですが.

澤田 : そうですね,何が必須かと言うと,やはり線形代数や確率ですね.少なくとも信号処理や機械学習等,私が携わってきたところでは結構重要です.物事を確率の式で表したり,確率の式で何か最適化の仕事をしたりしようとすると,必ず線形代数の知識が必要になってきますので.

湯川 : それらの概念に,馴染んでいるということは,強みになるのですね.

澤田 : 今お話した最適化をしようと思うと,微分の概念も必要です.
あとはそうですね,ちゃんと手が動くというか,鉛筆が動くということも重要で,「この式を微分してきて」と伝えた時にちゃんとできて欲しいです(笑).

大学の授業は会社で役に立つ?

湯川 : 線形代数や確率統計等を授業で習っても,学生はこれがどう社会や会社で役に立つか想像がつかないですからね.だからそれが役に立つという今のお話はぜひ学生さんに聞かせたいと思うのですが.

澤田 : それはまさに,私もその通りで,これは昔やったなと思いながら,会社に入って実際に音響信号を取り扱いながら,そういったことを勉強すると全然理解が違いますしモチベーションも違います.やはりそういう題材と一緒にそういったことを学んでいくというのが,すごく重要な気がしますね.

湯川 : 大学によっては工学部の教員が線形代数を教えている大学もあったりして,そういう意味でいうと,応用がわかっている工学部の教員の教えるメリットは,大きいのですかね.

澤田 : 大きいと思いますね.もうツールになっていますからね.逆にいうと,難しい数学の研究をするためのものではなくて,工学的に生かすための線形代数とか確率ですので,どう役に立つとか,何を対象にするか等が,重要になっていると思います.まあその中でも特に,音とか画像とかは聞いたり目で見たりして理解しやすいので,非常にいい題材だと思います. 非常勤講師で授業する時は音を題材にするのですよ.そうすると,皆すごく食いつきがよくて,そういうのを一年生にやった方がいいのかもしれないなと思うのです.

湯川 : 実感できる講義ですか?

澤田 : 中心極限定理というのがありますよね.信号を混ぜたらガウス分布になりますという.あれを実際にやるのですよ.
最初1人の声だけ聴かせて「こういうヒストグラムの形をしています」と見せて,2,4,8,16人と人数を増やしていきます.16人ぐらいだともうほんと雑音みたいで,ヒストグラムがガウス分布になっていくのですよ.「これが統計学で最も重要な物の一つの中心極限定理です」と教えると「ああガウス分布ってそういうことか」と理解してくれます.

対談 産官と学 日本電信電話株式会社

湯川 : なんか頭に残りそうですね.

澤田 : そうそう.それで,そのあとに逆をやるのですよ.「独立成分分析では,ガウス分布から遠ざけると音が分離できますよ」と.おそらく,そういうのを一年生ぐらいの学生さんにやれば「ああそういうことか」と興味持ってくれると思うのです.

(司会) 企業の方に講義して頂くのは迫力もあるので,学生にとってはものすごく良いですよね.