川崎市役所

対談「産官と学」   2013年10月 川崎市役所

大学の力は(中略)学生さんを含めたチームですので,先生と学生さんの総力に期待しています.(鈴木)
産官に加えて,行政に入って頂くというのは,社会を作っていくという意味では非常に重要だと思います.(久保)

研究が社会問題解決の何に結びつくのか - 目利きするのが行政の勝負どころ –

鈴木 : 産学官みたいな話で行きますと,羽田空港のそばの工場跡地をどうしようかという話があります.これからは超高齢社会であるし,ナノ医療を代表事例として進めようとしています.モノづくりの分野のナノ加工技術と医療や薬学をミックスして,新しい治療手段を作ろうとしています.例えば小さいカプセルに薬を入れて,しかるべき所に入り,病原を狙い撃ちするような技術です.まさに産学官の連携ですが,複数の大学によるナノ・マイクロ技術のコンソーシアムや,それを製品化するという意味で,多くの企業に参加頂いています.川崎市と,その関連する財団が研究環境を作り,大学が企業も巻き込んで一緒にやりましょうよと声がけしてやっている代表事例です.

久保 : 慶應義塾大学にも,新川崎のキャンパスがありまして、そちらも川崎市と産学官の試みを進めていますよね.

鈴木 : はい,あれを始めたころは,言わば川崎市にとっての本格的な産学官連携の第一号事例でしたから,それは手探りでした.しかし,慶應義塾が華々しい研究成果等をアピールしていただいたおかげで,産学官の連携のモデルとしてアピールが上手くできました.それは大変ありがたかったです.

久保 : そうですね.私が大学院生の時に,新川崎で研究をしておりましたが,やはりプロジェクト型でした.あのキャンパスは,研究拠点という形で,環境的にも非常に恵まれていました.

鈴木 : それがモデルになって,現在では隣にはかわさき新産業創造センター(KBIC)が立っています.さらに微細領域の研究に特化したNANOBIC(ナノビック)に発展しています.

慶應義塾大学 新川崎タウンキャンパス

慶應義塾大学 新川崎タウンキャンパス

国際ナノ・マイクロ技術産業化支援センター(NANOBIC)

国際ナノ・マイクロ技術産業化支援センター(NANOBIC)

(司会) 産学官のプロジェクトを進める際は,産官は大学の研究力に期待すると思うのですが,川崎市や企業から見たときに,このような大学の力において学生の力はどの程度寄与があると期待されているのですか?

鈴木 : 大学の力は,看板となる先生の求心力も期待していますが,学生さんを含めたチームですので,先生と学生さんの総力としての力を期待しています. 例えば,川崎臨海部に移転した実験動物中央研究所には,慶應義塾大学医学部の岡野先生も参加されていますが,学生さんが絶えず行って研究されています.そういう意味では,岡野先生の脊髄損傷の再生医療の研究というブランド力だけでなく,その傘下にしっかりチームとしてついている人たちの力が大事です.そこは,両方見えています.

久保 : 研究者はどちらかというと技術の方ばかりを見てしまいがちですが,少し引いた立場で取り持って,翻訳いただけるっていうのは非常に助かります.

鈴木 : 研究をされている人は,要素技術からスタートして,デバイスになったりさらにアプリケーションに結びついたりするのだと思いますが,我々は社会課題,つまりどのようにしたら問題を解決できるかというところからアプローチしています.
そうすると,要素技術ははるか向こう側にあって,それが,という目利きみたいなところが勝負となります.製品まで行かなくても中間部品ぐらいまで見えてきたりします.
正直,ものすごく距離があって,向こう側の研究者からすれば,その技術はすごいだろうというのがあるかもしれませんが,それが社会に実装されるためには,コストやそれが生み出すサービスのメリット等が一般の人に受け入れられなければなりません.そこのハードルを工夫すれば,距離感を縮められ研究が社会に入っていくのだと思います.少しでも,「それがこういう物になります」という情報発信をしていただいて,そこでうまく、圧倒的な距離をうまく結びつけるために社会課題を持っている側から一生懸命引っ張ってくるっていうところが重要で,その役割を担っているのが公共だというのが,川崎流です.

久保 : そこは非常に重要だと思っていて,社会課題のようなものは研究者側では浮かび上がらないものもあり,いろいろな統計データを見てわかるところもあると思っています.横の広がりも大きくなって,ニーズも多様化しているので,難しくなってきていると思います.企業も,製品を作ってお客さんからフィードバックが得られるかもしれませんが,地域の結びつきや一般生活のニーズのようなものを,取り入れるのは非常に難しいと思っています.そういう意味で産学に加えて,行政に入っていただくっていうのは,社会を作っていくという意味では非常に重要なのかと思います.

鈴木 : はい.言葉でいうとニーズ・シーズですが,昔のニーズ・シーズはモノづくりと製品ぐらいの距離でしたが,今はそこが圧倒的に遠いです.
例えば水素の話では,関係ないだろうと思っていたある企業で開発している製品が,実は水の電気分解にすごく使えるという話がありました.ニーズが見えてこないので,研究を縮小しようとしていたらしいのですが,グリーン水素に使えることがわかりました.別の企業では,業務用の大型の燃料電池の開発を行っていましたが,売り上げが芳しくなくもうやめようという話もありましたが,そこも繋がりました.

久保 : 我々は電気電子系の教員なので,そのようなエレクトロニクス技術のシーズを持っています.今までは多くの人が電機メーカに就職していましたが,今はかなり応用範囲が広がっていて,電気電子と一口で言っても,世の中のほとんどの製品にもインフラにおいても,それらの技術が非常に重要になってきているのだと思います.

対談 産官と学 川崎市

(司会)  川崎市には多くの電機メーカがありますが,学生にもわかり易く川崎市における電機メーカのこれからの取り組み事例について紹介頂けますか.

鈴木 : 川崎には本社や本社機能を有している電機メーカが沢山あります.富士通,キヤノン,東芝,富士電機などです.例えば東芝とは,川崎との間でスマートコミュニティの実現に向けた包括協定を結びました.川崎駅西口にスマートコミュニティセンターを開所して様々な機能をここに集結していただいています.

商店街では,商業の活性化ソリューションを,いわゆるビッグデータ管理でできないかということを考えています.また,似たような機能ですが,災害の時にツイート情報や,様々なサイトが発出する情報の語彙を解釈して,それをしかるべきところにプッシュする仕組みを作れないかという案もあります.公共交通が,情報提供の一つとしてあると考えています.そういったことを,川崎というフィールドで行っています.
やっぱり電気メーカさんも,2歩3歩向こう側に居て、社会課題をどう解決するっていう、具体的なビジョンをしっかり提供することが必要だと思います.そのために今、我々のところにもアプローチをして頂いています.色々な課題を分析して、持っているベースとなる技術とマッチングできるかっていう目利きをできるかどうという方向から我々は行きますが,電気メーカは逆側からアプローチするということなのでしょうね.

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