川崎市役所

対談「産官と学」   2013年10月 川崎市役所

解決策となるアイデアを作って世に見せていくことができる人が求められています.(中略)
裏を返せば,そういう人がなかなかいないということです.

電気電子は全ての源 - 社会の問題解決に技術の力を –

久保 : ベースとなる技術という話がありましたが,いろいろな分野がある中で、電気電子技術の重要性を感じられることはありますか.

鈴木 : 全ての領域が電気電子の世界から始まっているのですよね.例えば電力系はわかり易いですが,交通関係だと昔は,あまり電気は関係ない領域だったわけです.しかし,最近は電気自動車も普及しましたし,交通の信号の制御も電気系の技術が必要です.  交通制御も,最適化が必要でそこに制御を入れたり,センシングしたり,ビッグデータを使うということもあります.
超高齢対応でも,一般家庭での見守りや,医療によらないヘルスケアの中で、バイタル情報を取得して,しかるべきところに集約,分析をして、アドバイスをするという仕組みもそうです.
電気電子は,ある意味全ての源のところです. そういう意味で,川崎市内にいる電気メーカとのディスカッションは,すごく重要です.こういうことをすれば,こういうことであなたの生活はより便利になるという所を,課題解決の仕組みとして提示するのは公共の役割として大きいと思います.

久保 : そういった行政の中で,そういう電気電子の素養をもった人が活躍できる場面もあるのですか?

鈴木 : 一つの技術を深掘りした人が必要かどうかという点はわかりませんが,そういったマインドを持ちながらも大きな視野を描けるかどうかというのが勝負になるので,技術の要点を理解し,これが使えるという所をしっかり見定めた上で、ディスカッションをしっかりして,何か解決策となるアイデアを作って世に見せていくことができる人が求められていると思います.そういう能力は間違いなく必要となっていますが,裏を返せば,そういう人がなかなかいないということです. 私もそういう意味でいうと,ジェネラリストではありますが,実はキャリアの最初の頃にコンピュータの部署にいたのが少し長かったです.そういう意味では,その時身に付けた考えは役に立っています.

久保 : コンピュータというのは何か電子行政みたいなものですか?

鈴木 : そうですね。いわゆる情報処理です.大量のデータを、処理をして、オンラインシステムで申請を受け付けたりするデータプロセスです.

久保 : 今のスマート化の中にも入っていますね.
鈴木 : そうです.そういう経験はやはり生きています. 企業とディスカッションするときは,最初は文系の営業の方が来られます.大企業の営業は基本的には薄く広く勉強されています.しかし,我々もそれなりに勉強しているので,突っ込もうとすると,「ちょっとそこはまた別途」となり物足りません.一方で,技術者で話ができる人が来てくれると,一番ありがたいです.ピントがずれていると,我々としてはとてもフラストレーションがたまりますが,最初からその技術のバックボーンをしっかり持った人に来ていただけると,物が具体化しやすいです.例えば,商売として非常に広いエリアに,何かのシステムを実装しましょうということを議論すると,カバーしなくてはいけない領域は広くなるし,一方その中で必要となる技術はすごく深かったりします.深掘りしようとした時に耐えられる人材を我々も求めています.我々の課題に答えてくれる,あるいはそれは違うと逆に言い返してくれる人が必要です.つまり,しっかりとした技術のバックボーンを持って,技術を語れる人材が今の日本で必要とされています.

(司会) 製品開発に例えると,最初の企画開発から,最後の出口まで面倒を見られる人が必要とされているのですね

対談 産官と学 川崎市

大きなパラダイムシフトが必要な今、電気電子は未来像を提示すべき分野!

鈴木 : 企業への就職の面で考えるときに,どこが有利だろうという視点で考えると,電気は動力としてのエネルギーにも通信のベースにもなるので,無くては世の中何も動きません.家電メーカはどうなっていくかという話だけでなくて,長期的に見れば,先ほどの水素の話も,結局最終的に電気が関係しているわけです.そうすると,基本となる存在だと思いますし,本質的な所として捉える必要があります.

久保 : 我々としては電気電子の技術者が増えていって欲しいと思っているわけなので,一つの問題としては,学生が電子や電気に関連するのは電機メーカだけだと思っているのが,そもそも間違っているのだと思います.  色々なアプリケーションも増えていて,電気電子はどこにでも使えて,自動車会社の方が実は電気系は欲しがっていたりします.

鈴木 : 自動車でいくと,エンジンが,内燃機関からモーターになるかならないかという時ですよね.あれを単に今の交通システムに載せ替えるだけでなくて,せっかくそういう大転換をしようとするのであれば,徹底的にセンシングして,交通システムを能動的に制御するような仕組みに作り変えることを,日本初でやりきっていきたいと思います.自動運転も徐々に形になってきていますし,戦略特区でそれを動かすことを提案しているところもあります.
大きなパラダイムシフトが必要になっているわけですから,そういう中で改めて電気電子は5年・10年でなにができるかという未来像を提示してくると思います.それをやらないと、おそらく日本は急速に高齢化しますので,地力の無い国になっていってしまうと思います. 繰り返しになりますが,我々は,しっかりした技術も持っていて,地域の課題をかぎ分けて,そこから課題解決のヒントになるような論理を出して、ソリューションに仕立てることができる人材は欲しいです.そういうことをする上での,パートナーとしての民間企業にそういう人がいると最高にありがたいですよ.

久保 : やはりいろんな立場で,そういう人がいるっていうのが重要なのですね.

鈴木 : それと,スマート化の関係でドイツに出張したのですが,博士を取得された方が多いです.博士の研究をそのまま続けているわけではないのですよ.ある技術の基礎があった上で,結構幅広いことに取り組んでいました.

(司会)  慶應義塾にもリーディング大学院プログラムがあります.

鈴木 : 文理融合みたいなイメージですね.その大事なバックボーンとして,確立した技術が無くてはいけないということですね.しっかりとした縦軸を持ったうえで,横軸も広いというグローバル人材が求められているのでしょうね.そういう人材をT型と呼ぶのでしょうかね(笑).

対談 産官と学 川崎市

 

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編集後記:
今回は川崎市のスマートシティの取り組みについてお話を伺いました.行政の立場から広い視野で俯瞰されている鈴木さんのお話をお伺いでき,ダイナミックな変化が起きていることを知ることができました.その中での電気電子と関連する電機メーカ等が果たしている役割を垣間見ることができました.(田邉孝純)

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